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燦華〈さんか〉
【蕾】
物静かな秋の大地に蕾あり。
その蕾は今か今かと開花を待ち望み、
まるで心の昂りを抑えきれないようだ。
【開花】
やがてその蕾は、紅葉染まる秋の大地
に季節外れな薄桃色の花を咲かせてい
く。しかし、赤色の大地に堂々と咲い
たその桜は人々に感動を与え、魅了し
ていった。
【冬の刻】
季節は移ろぎ桜が咲いたこの地にも、
やがて冬が訪れる。紅葉していた木々
はその葉を散らし、桜の花も無抵抗に
散ってゆく。色とりどりだった地は見
る影もなく、空から降る雪が大地を白
く塗り替えてく。
【吹雪】
風は強く吹き、雪はその降る勢いを増
していく。静かな時もつかの間、この
地に吹雪が跋扈する。吹き荒ぶる風は
木々をなぎ倒し、豪雪は有相無相を白
く埋め尽くす。そんな中吹雪に負けず
静かに蕾を付けていった樹があった。
【春の訪れ】
吹雪は去り、周囲も暖かくなっていき、積もっていた雪は徐々に溶けていく。長く地を領した冬が老いたかの如く次々と散ってゆく。地面が露わになったとき、小鳥のさえずりと共に緑色が現れる。秋とは違った彩を見せる頃、その蕾は今か今かとその時を待っていた。
【開花の時】
吹雪の厳しさを乗り越えこの上なく美しい満開の花を咲かせる。
その情景は心のうちに眠る、桜の記憶を呼びおこした。
さあ、宴の始まりだ。
秋とは比べ物にならないほど、桜一面に広がる世界に人々は喜びとともに溺れていった。
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